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名古屋地方裁判所 昭和42年(行ウ)20号 判決 1978年12月11日

名古屋市千種区覚王山通八丁目三四番地

原告

丸十産業株式会社

右代表者代表取締役

神谷久夫

右訴訟代理人弁護士

天野雅光

名古屋市千種区振甫町三丁目三二番地三

被告

旧昭和税務署長事務承継者千種税務署長 中島勝

右指定代理人

細井淳久

外五名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

(原告)

昭和税務署長が、昭和三八年一二月二五日付で、原告の昭和三四年一二月一日から昭和三五年一一月三〇日まで、昭和三五年一二月一日から昭和三六年一一月三〇日まで、昭和三六年一二月一日から昭和三七年一一月三〇日までの各事業年度分の法人税につについてなした更正処分及び重加算税賦課決定をいずれも取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(被告)

主文同旨の判決。

第二、主張

(原告)

請求原因

一、原告は、不動産の売買・管理等を目的とする株式会社であるが、昭和三四年一二月一日から昭和三五年一一月三〇日まで(以下「係争第一期」という。)、昭和三五年一二月一日から昭和三六年一一月三〇日まで(以下「係争第二期」という。)、昭和三六年一二月一日から昭和三七年一一月三〇日まで(以下「係争第三期」という。)の各事業年度の法人税について、法定申告期限内に昭和税務署長に対し係争第一期において五六五万三、二三五円、係争第二期において二、一七三万七、一二五円、係争第三期において五、〇一三万九、四一三円の各欠損として確定申告をした。

二、昭和税務署長は、昭和三八年一二月二五日付で、右各事業年度の法人税について、別紙(一)「課税処分表」記載のとおりの更正処分及び重加算税の賦課決定(以下「本件課税処分」という。)をなした。

三、しかし、本件課税処分は、原告の所得の算定を誤つたものであつて、違法であるから、その取消を求める。

四、なお、本件課税処分後、大蔵省組織規程の一部改正により税務署の管轄に変更があり、それに伴い本件課税処分に関する事務は被告が承継した。

(被告)

請求原因に対する認否

請求原因一、二、四の事実は認める。同三の事実は争う。

本件課税処分の適法性について

一、係争第一乃至第三期における原告の所得金額の内訳は別紙(二)記載のとおりであるが、その詳細は次のとおりである。

1 原告の申告額に加算したもの

(1) 貸付金計上洩れ

原告は、定款記載の目的にかかわりなく、金融業を営んでいたものであるが、瀬川、鈴井、中村などの架空名義を使用して、帳簿外で訴外中部観光株式会社(以下「中部観光」という。)に対し、手形割引の方法により、別紙(三)の1乃至3記載のとおり、係争第一期末において四、七一五万五、〇〇〇円、係争第二期末において五、一八二万五、〇〇〇円、係争第三期末において一億七、四五八万五、六一二円を貸付けていた。しかるに原告は、右金額を各確定決算に貸付金として計上していなかつたので、貸付金計上洩れとして加算した。

(2) 架空の借入金否認

原告は、銀行借入金の外に個人借入金として、係争第一期末において別紙(四)の1記載の者から合計一、五一三万六、二八八円、係争第二期末において別紙(四)の2記載の者から合計九、七七二万九、五七五円の借入金が存在する旨申し立てたが、昭和税務署長が調査した結果いずれも実在しない人物からの架空の借入れと判断されたので、これを否認した。

原告は、係争第三期末における個人借入金として別紙(四)の3記載の者からの合計九、二〇一万五、〇〇〇円の借入金の外、訴外佐藤佐市郎から三、六七〇万円、訴外近藤増三郎から五六五万円の各借入金(合計一億三、四三六万五、〇〇〇円)が存在する旨申立てた。しかし、調査の結果、近藤増三郎分三四〇万円、小沢行雄分二口計一四〇万円、小沢はな分一五万円合計四九五万円は実際に借入れした事績があつたが、その余は借入れの事実がなかつたので、右申立てた借入金合計一億三、四三六万五、〇〇〇円から右認容額四九五万円を控除した一億二、九四一万五、〇〇〇円を架空借入金として否認した。

(3) 架空の支払手形否認

原告は、係争第一期の確定決算において、支払手形として一、〇〇二万〇、六五〇円を計上したが、そのうち次に掲げる大河内一夫外六名に対する合計九九七万円の支払手形は係争第一期末には当該支払債務として存在せず、しかも右支払手形はいずれも受取人である大河内らに交付されておらず、架空の手形であることが判明したので、架空の支払手形として否認した。

(4) 仮払金計上洩れ

原告は、係争第二期において決算に計上した経費以外に九一一万五、一五四円を支出しているが、その費途が明らかでないため費途不明として否認した。

(5) 前期貸付金過大計上除算分繰入

後記2の(2)「貸付金過大計上」として減算認容した一、六〇二万五、〇〇〇円の再割引にかかる手形は、その支払期日がいずれも係争第三期に到来し、原告は同期中に一、六〇二万五、〇〇〇円を返済しているので当該金額を加算した。

2 原告の申告額より減算したもの

(1) 仮受金

係争第一期分として四、三三五万五、九一九円である。

(2) 貸付金過大計上

原告は、係争第二期において、係争第一期と同様に、中部観光からの依頼によつて、手形割引をしていたが、当該割引手形のうち一部についてはさらに訴外佐藤佐市郎に依頼し、再割引を受けていた。係争第二期の決算期末における原告の再割引の残高をみると、再割引の手形は別紙(三)の4記載のとおり一、六〇二万五、〇〇〇円存していたことが判明したので、当該金額を貸付金過大として減算した。

なお、係争第三期における貸付金過大計上として減算した分(三、七三一万円)の内訳は別紙(三)の5記載のとおりである。

(3) 貸付金繰入

係争第一期に貸付金計上洩れとして加算した割引手形四、七一五万五、〇〇〇円の支払期日はいずれも係争第二期に到来し、原告は同期中に回収したので、当該金額を減算した。

また、係争第二期に貸付金計上洩れとして加算した割引手形五、一八二万五、〇〇〇円の支払期日はいずれも係争第三期に到来し、原告は同期中に回収したので、当該金額を減算した。

(4) 前期否認借入金繰入

原告は、係争第一期の決算において借入金として九、三六三万一、二六三円を計上したが、そのうち加藤俊夫外四名からの借入金一、五一三万六、二八八円は架空のものであつたことから、昭和税務署長は右金額を否認した。さらに原告は、係争第二期の決算において、係争第一期の架空の借入金にかえて神田初子外九九名から九、七七二万九、五七五円の架空借入金を計上したので、昭和税務署長は右金額を否認するとともに、係争第一期に否認した借入金一、五一三万六、二八八円を減算した。

原告は、係争第三期においても係争第二期の架空の借入金にかえて一億二、九四一万三、〇〇〇円の架空借入金を計上したので昭和税務署長は右金額を否認するとともに、係争第二期に否認した借入金額九、七七二万九、五七五円を減算した。

(5) 前期否認支払手形繰入

原告は、係争第一期の決算において架空の支払手形九九七万円を計上したので、昭和税務署長は右金額を否認した。ところが、原告は係争第二期においては架空の支払手形を決算に計上することにかえ、個人からの架空の借入金として九、七七二万九、五七五円を計上したので、昭和税務署長は、右金額を否認するとともに係争第一期において否認した支払手形九九七万円を減算した。

(6) 未納事業税認定損

未納事業税認定損は係争第二期において二七二万五、二五〇円、係争第三期において五三八万五、五二〇円である。

以上のとおりであつて、別紙(二)記載の所得金額の範囲内でなされた本件各更正処分はいずれも適法である。

二、原告は前項に記載したとおり、本件各係争期の法人税の課税標準及び税額の計算の基礎となるべき事実を仮装、隠ぺいし、それに基づいて各確定申告書を提出した。

而して、本件各係争期の重加算税額は、係争第一期及び二期については国税通則法九条旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)四三条の二第一項及び第二項により、係争第三期については国税通則法六八条一項により別紙(五)に記載のとおりとなる。

従つて、右各金額の範囲内でなされた本件各賦課決定はいずれも適法である。

(原告)

被告の主張に対する認否

被告の主張一、二の事実はいずれも否認する。

但し、減算科目中、仮受金、係争第三期の貸付金過大計上、未納事業税認定損が被告主張額のとおりであることは認める。

原告の借入れは架空のものではなく、現実に訴外佐藤佐市郎、足立由光、白木茂好らから借入れをしていたものである。右貸主らは、税務対策上自己の氏名を出すことを好まず、右利息の領収証に架空人の住所・氏名を記載し、それら名義人から借入れをしたことにして欲しいと希望していたので、原告は、そのとおりに処理したのである。

また、原告が、中部観光に対して手形割引の方法により金員を貸付けていたことはない。原告は、中部観光が訴外佐藤佐市郎から融資を受けるについてその取次ぎをしたにすぎない。

第三、証拠

(原告)

甲第一乃至第六号証を提出し、証人奥山宗雄・同成瀬洋三・同山本卓男の各証言を援用し、乙第四、三一、四二、四三号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める、とした。

(被告)

乙第一号証、第二号証の一乃至五、第三号証の一乃至一二、第四乃至第三三号証、第三四号証の一乃至四一、第三五号証の一乃至三一、第三六号証の一乃至二五、第三七号証の一乃至六、第三八号証の一乃至一三、第三九乃至第四三号証を提出し、証人小林一三、同奥山宗雄の各証言を援用し、甲第一号証の成立を認め、その余の甲号各証の成立は不知、とした。

理由

一、請求原因一、二、四の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、本件課税処分の適法性について検討する。

1  いずれも成立に争いのない乙第三四号証の一乃至四一、同第三五号証の一乃至三一、同第三六号証の一乃至二五、同第三七号証の一乃至六、同第三八号証の一乃至一三、証人奥山宗雄・同小林一三の各証言並びに右各証言により成立の認められる乙第四号証によれば、原告は、定款記載の目的にかかわりなく、金融業を営んでいたものであるが、瀬川、鈴井、中川、中村、田中などの架空名義を使用して、中部観光に対し、手形割引の方法により金銭を貸付け、別紙(三)の1乃至3「貸付金計上洩れの明細」記載のとおり係争第一期末に合計四、七一五万五、〇〇〇円、係争第二期末に合計五、一八二万五、〇〇〇円、係争第三期末に合計一億七、四五八万五、六一二円の貸付金を有していたこと、原告は、右各金額を本件各係争期における確定決算に貸付金として計上していなかつたことが認められる。

証人成瀬洋三の証言中、右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして措信し難く、他に右認定を左右すべき証拠はない。

2  いずれも成立に争いのない乙第一号証、同第二号証の一乃至五、同第三号証の一乃至一二、同第五乃至第三〇号証、同第三二、三三、三九、四一号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第三一号証並びに証人小林一三の証言によれば、原告は、個人借入金として係争第一期末において別紙(四)の1記載の者から合計一、五一三万六、二八八円、係争第二期末において別紙(四)の2記載の者から合計九、七七二万九、五七五円、係争第三期末において別紙(四)の3記載の者から合計九、二〇一万五、〇〇〇円の借入金の外訴外佐藤佐市郎から三、六七〇万円、近藤増三郎から五六五万円の各借入金が存在する旨申告したこと、しかし、係争第一、二期の借入金はいずれも実在しない人物からの架空借入金であり、係争第三期については、原告は、近藤増三郎から三四〇万円、小沢行雄から一四〇万円、小沢はなから一五万円を実際に借入れてはいたが、近藤増三郎分の差額二二五万円、佐藤佐市郎分三、六七〇万円は借入れたことがなく、その余の借入金はいずれも実在しない人物からのものであつて架空借入金であつたことが認められる。

証人成瀬洋三は、別紙(四)の1乃至3記載の借入金はいずれも架空借入金ではなく、実際には訴外佐藤佐市郎、足立由光、白木茂好らから借入れたものである旨供述しているが、右供述は、成立に争いのない乙第四〇号証中の成瀬洋三記載にかかる部分と矛盾するなど曖昧な点が多いし、前掲各証拠に照らしても措信し難い。

他に右認定を左右すべき証拠はない。

3  証人小林一三の証言及び同証言により成立の認められる乙第四三号証によれば、原告が係争第一期の決算において支払手形として計上したもののうち、被告の主張一、1(3)掲記の大河内一夫外六名に対する合計九九七万円の支払手形は、係争第一期末には当該支払債務として存在しなかつたことが認められる。

証人成瀬洋三の証言中、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして措信し難く、他に右認定を左右すべき証拠はない。

4  証人小林一三・同成瀬洋三の各証言によれば、原告は、係争第二期の決算において当時の原告の代表者であつた成瀬洋三に対する同期中の仮払金九一一万五、一五四円を計上していなかつたことが認められる。

5  前掲乙第四、三一号証、証人小林一三の証言並びに同証言により成立の認められる乙第四二号証によれば、原告が係争第二期において、手形割引の方法により、中部観光に融資した五、一八二万五、〇〇〇円分のうち別紙(三)の4記載の合計一、六〇二万五、〇〇〇円分は、原告が訴外佐藤佐市郎に依頼して再割引を受けていたこと、原告は、右再割引による借入金を、係争第三期末までに簿外利益で訴外佐藤佐市郎に全額返済していることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

6  前掲乙第四号証によれば、原告の中部観光に対する係争第一期の貸付金四、七一五万五、〇〇〇円、係争第二期の貸付金五、一八二万五、〇〇〇円はそれぞれ係争第二期末、係争第三期末までに原告において回収したことが認められる。

7  前掲乙第一号証、同第二号証の一乃至五、同第三号証の一乃至一二によれば、前記認定の係争第一期における架空借入金一、五一三万六二二八八円、係争第二期における架空借入金九、七七二万九、五七五円は、係争第二期末、係争第三期末の原告の各決算においてそれぞれ残高が零とされたことが認められる。

8  証人小林一三の証言によれば、前記認定の係争第一期における架空の支払手形に基づく支払債務は、原告の係争第二期末の決算において零とされたことが認められる。

9  原告の係争第一期における仮受金、係争第三期における貸付金過大計上額、係争第二、三期における未納事業税認定額損が被告主張額であつたことは当事者間に争いがない。

以上1乃至9の事実によれば、被告が主張する別紙(二)記載の所得金額の算定は正当というべきであつて、係争第一乃至第三期における原告の各所得金額は同表に記載のとおりである。

そうすれば、右各所得金額の範囲内でなされた本件各更正処分はいずれも適法であつて、原告の主張は理由がない。

また、前記認定事実によれば、原告は、係争第一乃至第三期の法人税の課税標準及び税額の計算の基礎となるべき事実を仮装、隠ぺいし、それに基づいて各確定申告書を提出したものというべきである。

而して、原告の納付すべき重加算税額は、別紙(五)記載のとおりである。

そうすれば、右金額の範囲内でなされた本件各賦課決定はいずれも適法であつて、この点に関する原告の主張も理由がない。

三、よつて、原告の本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決した。

(裁判長 裁判官 藤井俊彦 裁判官 浜崎浩一 裁判官 山川悦男)

別紙(一)

課税処分表

別紙(二)

別紙(三)の1

貸付金計上洩れの明細(係争第一期)

別紙(三)の2

貸付金計上洩れの明細(係争第二期)

別紙(三)の3

貸付金計上洩れの明細(係争第三期)

別紙(三)の4

貸付金過大計上の明細(係争第二期)

別紙(三)の5

貸付金過大計上の明細(係争第三期)

別紙(四)の1

1. 昭和35年度(34.12.1 35.11.30)

係争第1期

個人借入金及び支払利息明細書

別紙(四)の2

2. 昭和36年度(35.12.1 36.11.30)

係争第2期

個人借入金及び支払利息明細書

別紙(四)の3

3. 昭和37年度(36.12.1 37.11.30)

係争第三期

個人借入金及び支払利息明細書

別紙(五)

重加算税の計算

(注) 1.7の金額は旧法人税法43条の2第4項及び国税通則法118条の規定により1,000円未満の端数は切捨てる。

2.第一及び第二期分は、旧法人税法43条の2第1項の百分の五十が適用され、第三期分は国税通則法68条1項の百分の三十が適用される。

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